彼は部屋に入ってきたとき、窓から差し込む光に照らされた緑色の翅が目に飛び込んできた。部屋の隅で羽ばたく小さな生き物は、イトトンボだった。彼は幼いころ、田んぼでよくイトトンボを見かけたが、都会で見るのは珍しかった。
彼は優しく手を伸ばして、イトトンボを捕まえようとした。すると、イトトンボは驚いて逃げようとしたが、窓ガラスにぶつかってしまった。彼は慌てて窓を開けて、イトトンボを外に出そうとしたが、そのとき、指先に触れた羽の感触が心に響いた。
それは軽くて柔らかくて、そして強くて美しい感触だった。彼はイトトンボの目を見た。それは小さくて黒くて、深い知性と生命力を秘めていた。彼は自分がこの生き物から何かを奪ってしまったのではないかと思った。彼はイトトンボを手のひらに乗せて、そっと窓から放した。
イトトンボは空に舞い上がって、太陽の光にキラキラと輝いた。彼はその姿を見送った。彼は自分が今まで気づかなかった何かを感じた。それは生命というものだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿