日本人は『忖度』しているのではなく、単純に『勇気がない』だけのことなんじゃないかという物語

 忖度の罠

山田太郎は、大手広告会社の営業部に勤める平凡なサラリーマンだった。彼は仕事ができるとは言えないが、失敗もしない。上司や同僚からはあまり目立たない存在だったが、それでも彼は自分の仕事に誇りを持っていた。彼は常に周りの人の気持ちを考えて行動し、誰にも迷惑をかけないように努めていた。彼はそれが日本人としての美徳だと信じていた。

しかし、ある日、彼の人生は一変する。彼は会社の重要なクライアントである大手飲料メーカーの担当になった。そのクライアントは、新しい商品のキャンペーンを展開するために、有名なアイドルグループを起用することを決めていた。山田はそのキャンペーンの企画書を作成することになったが、その中で彼は大きな問題に直面した。

その問題とは、アイドルグループのメンバーの一人が、スキャンダルに巻き込まれていたことだった。彼女は自身のインスタグラムに、彼氏と思われる男性とのツーショット写真を投稿してしまったのだ。その写真はすぐに削除されたが、ファンやマスコミによって拡散されてしまった。その結果、彼女はファンからの批判やバッシングを受けることになった。

山田はこの事実を知ったとき、どうすべきか悩んだ。彼はクライアントにこの問題を伝えるべきだと思ったが、同時にそれがクライアントを怒らせるかもしれないとも思った。彼はクライアントがこの問題を知っている可能性もあると考えたが、それでも確認するべきだと思った。しかし、彼はその勇気がなかった。彼はクライアントに不快な思いをさせたくなかった。彼はクライアントが自分に期待していることを忖度した。彼はこの問題を無視することにした。

それが彼の運命を決めることになった。

山田の作成した企画書は、クライアントに高く評価された。クライアントは、アイドルグループの起用について何も言及しなかった。山田は安心したが、同時に不安も感じた。彼は自分の判断が正しかったのかどうか、確信が持てなかった。

やがて、キャンペーンの開始日が近づいてきた。山田はクライアントと一緒に、キャンペーンの打ち合わせを行った。その中で、クライアントは山田に驚くべきことを告げた。

「実は、あのアイドルグループのメンバーの一人が、スキャンダルに巻き込まれていることを知っていました。でも、それをあなたに伝えなかったのです。なぜなら、あなたがその問題を無視してくれると信じていたからです。私はあなたに忖度してほしかったのです」

山田は驚愕した。彼はクライアントが自分に期待していることを忖度したつもりだったが、実はクライアントも自分に忖度していたのだ。彼はこの事実を知っていれば、違う判断をしたかもしれないと思った。彼は自分の行動が正しかったのかどうか、さらに疑問に思った。

しかし、その時点で彼にできることは何もなかった。キャンペーンはすでに決定されていた。山田は仕方なく、クライアントの意向に従うことにした。

そして、キャンペーンの開始日がやってきた。山田はテレビやインターネットで、自分の企画したキャンペーンを見ることができた。彼は自分の仕事に満足感を覚えたが、同時に不安も感じた。彼はこのキャンペーンが成功することを祈った。

しかし、彼の祈りは届かなかった。キャンペーンが開始されるやいなや、アイドルグループのメンバーのスキャンダルが再び注目されることになった。ファンやマスコミは、彼女が商品のイメージにそぐわないと批判した。また、彼女の写真を投稿した男性が、実は既婚者だということが発覚した。それにより、彼女は不倫疑惑にも巻き込まれることになった。

これらの事態によって、キャンペーンは大失敗に終わった。クライアントは大損害を被り、山田の会社も責任を問われることになった。山田は自分のミスを認めることになり、会社から解雇されることになった。

山田は自分の人生を後悔した。彼は自分が忖度しているつもりだったことが、実は勇気がないだけだったことに気づいた。彼は自分の本音や信念を表現することができなかった。彼は自分の選択が正しかったのかどうか、決して答えを得ることができなかった。

彼は忖度の罠にはまってしまったのだった。