彼はいつも忖度していた。上司の顔色を伺い、同僚の意見に同調し、部下の不満に目をつぶった。空気を読むことが仕事の一部だと思っていた。事なかれ主義で平穏に暮らすことが幸せだと信じていた。長いものには巻かれろという教えを守り、寄らば大樹の陰という格言を心に刻んだ。見て見ぬふりをすることで、自分を守っていると思っていた。
しかし、ある日、彼は自分の忖度が大きな災厄を招いたことに気づいた。上司が不正を働き、同僚が裏切り、部下が反乱した。空気は悪臭に満ち、事は大事になり、長いものは切られ、大樹は倒れた。見て見ぬふりをしていたことが、すべてバレてしまった。
彼は逃げ出そうとしたが、追い詰められた。彼は泣き叫んだが、誰も助けてくれなかった。彼は許しを請うたが、誰も聞いてくれなかった。彼は自分の行動を正当化しようとしたが、誰も信じてくれなかった。
彼はやっと気づいた。自分は忖度していただけではなかった。自分は単なる臆病者だったのだ。
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